※アフィリエイト広告を利用しています

和書 読書

どこから行っても遠い町<感想> ”平凡な日々の豊かさとあやうさを映し出す連作短編小説”

あらすじ

捨てたものではなかったです、あたしの人生──。
男二人が奇妙な仲のよさで同居する魚屋の話、真夜中に差し向かいで紅茶をのむ主婦と姑、両親の不仲をみつめる小学生、そして裸足で男のもとへ駆けていった女……。
それぞれの人生はゆるくつながり、わずかにかたちをかえながら、ふたたび続いていく。東京の小さな町を舞台に、平凡な日々の豊かさとあやうさを映し出す連作短篇小説。

<出版社より>

 

 

元々、川上弘美さんは「蛇を踏む」と「神様」を読んで好きになった作家さんなんです。
独特な世界の川上ワールド。非日常に引き込んでくれ、一時ここから離れられるような錯覚を覚える。
それでいてどの文章を取ってみても日常が静かに溶け込んでいる。不思議な世界観を持つ作家さんですね。

この作品は発売当時、新聞広告で見かけてタイトルにとても惹かれたんですが今まで読む機会がなかったもの。
先日、図書館に出かけた際に本棚に埋もれているこの本が目に飛び込んできて迷わず手に取りました。
こういうのってタイミングなんですね。私にとって今が読むタイミングだったんでしょう。

東京の小さな町を舞台にして、何気ない日常とそこに混じるほんの少しの非日常が描き出された作品。
11遍の短編から成っており、少しずつ登場人物が繋がっている連作形式になってます。
取り立ててすごい事件が起るわけではなく淡々と日常が描かれている。でもその中に混じる狂気や無情さ。
どこにでもある平凡な町、共感できる、と思うのはどこにでもあるこの町の描写まで。ここから先は川上ワールド炸裂です。
川上さんってなんでこうどこにでもある日常から怖さを引き出せるんでしょうね。でも絶対に怖さだけでは終わらせないんですよね。
その先にある小さな幸せやほんわかした雰囲気を絶対に忘れない。

 

「生きていくということはどうやっても、不安に充ち満ちたものなのです」

解説より

松家仁之さんの解説の一文がこの小説を何より簡潔に表してると感じました。
そしてこれこそが私達がついつい川上作品を手に取ってしまう理由でもあると。

ちなみに私のお気に入り登場人物は「あけみさん」。決して自分とは交わらないのに何故か共感を生む人物。この人に親近感が湧いた人はきっと私だけではないはずと確信しています。

 

-和書, 読書