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和書

川のほとりに立つ者は<感想> ー希望の灯りが心にともるー

あらすじ

カフェの若き店長・原田清瀬は、ある日、恋人の松木が怪我をして意識が戻らないと病院から連絡を受ける。松木の部屋を訪れた清瀬は、彼が隠していたノートを見つけたことで、恋人が自分に隠していた秘密を少しずつ知ることに――。「当たり前」に埋もれた声を丁寧に紡ぎ、他者と交わる痛みとその先の希望を描いた物語。

<出版社より引用>

 

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ガツンと頭を殴られたような衝撃を受けた気がしました。そして読み進めていくうちにジワジワと色んなところに刺さる感じ。というか、刺されている感じ。
主人公の清瀬とその恋人の松木を中心に登場人物の内面にクローズアップしていくんですが、普段は意識していない部分、もしくはあえて見ようとしない部分を深く抉られる感覚でした。

この小説を読んでいる間中頭にチラついていたのが、金子みすゞさんの童謡の一節「みんなちがって みんないい。」(私と小鳥と鈴と)
有名なフレーズですよね。今までそれぞれの個性という面でこのフレーズに共感していましたが、本当にはこの詩を理解していなかったな、と。都合のいい部分だけ耳障りのいいフレーズに共感して、都合の悪い部分からは目を逸らす。だからこそこの小説を読みながら主人公と一緒に自分が糾弾されている、居心地の悪い、そんな気分になったんだと思います。
ちなみにもう一つ思い出していた言葉があって「正論は正しい、だが正論を武器にする奴は正しくない。お前が使ってるのはどっちだ?」(図書館戦争シリーズ1:有川浩著)
以前に紹介したシリーズの中の言葉なのですが、思えばこれも当時衝撃を受けたフレーズでしたね。

主人公の親友の台詞。
「でも自分の心のままに、思うままに生きてたら、わたしはきっと誠実な人ではなくなるよ。だってずるい気持ちも汚い気持ちもいっぱい持ってるもん。なにかする時はいつも『どういうのが誠実な態度か?行動か?発言か?』って考えながら、選んでる。たまに無理もしてる、我慢もいっぱいしてる、でもそれが自分を偽ってる行為やとは思ってない」(本文より)
その場で考え、判断し、選んだ行動や発言は偽善ではないのだな。それを選んだ自分も含めて自分なんだなと考えさせられた台詞でした。
この親友の篠ちゃん、健やかな人だなと思う。きれい、じゃなくて健やか。篠ちゃん、大好きです。

この作品の魅力は登場人物の内面描写ではないでしょうか。自分はこう思っている、正しい、でも本当にそうなのか…ある出来事や事件をきっかけに気付かされていく。そこで生まれる葛藤や共感。また現実に起こりうる社会問題にも触れており誠実な作品だと思いました。
一方で前述したように刺されて居心地の悪さを感じながらも読み進めさせられるのは、文章の美しさからでしょう。寺地はるなさんの作品は初読なのですが、風景描写がとてもリアルでそこに乗っかる会話も自然と流れていく。そんな印象を受けました。

作中に架空の小説が出てくるのですが、その一節に「川のほとりに立つ者は、水底に沈む石の数を知り得ない」(本文より)というのがあります。作中に何度か出てくるのですが、その度にこの小説のテーマと絡まり合い効果的に使われていると思っていたんです。そして最後に主人公がその石の数は知らないけれども…と描写している場面。ストンと腹の底に落ちてきました。腑に落ちる、という言葉がしっくりくるかどうかはわからないのですが、この小説を最後まで読み終えることができてよかったと思えた部分でした。最後にふと掬い上げられました。

全てが正しくなくていい。上手くいかなくてもいい。小さな、そしてかき消されてしまいがちな小さな声を丁寧に拾い上げ紡ぎ、微かに見える希望を描いている。
じっくり読み返したくなる作品です。

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きょうのにゃんこ

 

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